お寺はいろいろなパワーが宿る場所。だからこそ不思議な伝説が残っていることが多いですよね。動物にまつわる話だったり、仏像に関する話だったり。「え?ほんとに?」と疑いたくなるような言い伝えもちらほら。心温まるエピソードを知ればまた、お寺を訪れたくなりそう。
1.長者の命を救った2匹の忠犬物語
瓦に刻まれた「忠犬」とは、福山の里(現・神河町)に住む長者が家来に命を奪われそうになったところを救った2匹の愛犬のことを指します。
石段を登り切った左右の祠(ほこら)には2匹の忠犬の石像が祭られています。
矢をくわえて、りりしい表情の黒犬。
白犬は口に弓をくわえていたそう。
●金楽山 法楽寺(きんらくさん ほうらくじ)
鎌倉時代に書かれた播磨地方の地誌「峯相記(みねあいき)」、江戸時代の地誌「播磨鑑(はりまかがみ)」などの文献に犬にまつわる文が残され、地域の人たちからは親しみを込めて「犬寺(いぬでら)」と呼ばれています。
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2.火事を逃れるため千手観音が空を飛んでケヤキの枝に!
山火事が起こり、別の場所にあった本堂が炎に包まれたとき、弘法大師が彫った千手観音が空を飛んでケヤキの木に。
通りがかった高野山の僧が千手観音を見つけ、この地に堂を建てて、本尊として祭りました。
千年以上も前から、この地に根を張り、地域の人たちを見守ってきたケヤキの老木。幹表面には珍しいシダの一種やコケが息づいています。
●龍上山 延応寺(りゅうじょうざん えんのうじ)
明治維新の先駆けとなったのが幕末の政変「生野義挙(いくのぎきょ)」。境内に尊王攘夷派の志士らが集まり、討幕運動の計画を練りました。ケヤキの木の下にはそれを示す石碑(せきひ)が残っています。
※尊王攘夷派…天皇を敬い、外国の侵略を攻撃しようとする思想。
※志士…国家のために尽くそうとした志の高い人。
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3.約40年前、涙を流す観音がテレビで話題に
1980年、数センチ移動させただけで突然涙を流し始めたという涙観音。
テレビで紹介されると全国各地から大勢の見物客が押し寄せたとか。今は当時の涙も乾き、本堂の横で静かに佇(たたず)んでいます。じっくり見ると涙の跡が見られるかも?
●稲富山 圓融寺(いなとみさん えんゆうじ)
梅林で有名な綾部山の向かいに建っています。戦争で梵鐘(ぼんしょう)を供出しましたが1952年に四国の工業高校生の手によって再建。それ以来、住職の突く鐘の音が風に乗って、辺り一帯に時間を知らせています。
※供出…戦争中に武器製造に必要な物資が不足し、金属類を回収した。
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4.聖徳太子が遭遇した神の使いと言われている白い鹿
仏教の講義を行うために訪れた聖徳太子が山の中で出会った白い鹿。
脚を負傷し、瀕死(ひんし)の状態だったので、病気平癒(へいゆ)にご利益のある薬師如来に祈ると、たちまち怪我(けが)が治りました。それが山号「白鹿山」の由来になっています。
※山号…寺院の名前の前に付ける称号
●白鹿山 掎鹿寺(はくろくさん はしかじ)
境内は平安時代、三草山合戦で源義経軍が平資盛軍を夜襲した後、戦勝の宴を開いた地でもあります。翌日、義経軍は一ノ谷へと進軍。道沿いには「義経道」と刻んだ石が置かれています。
※夜襲…夜に敵を攻撃すること
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5.境内の池に伝わる龍神伝説は本当だった!?
寺を再建した仁可上人(じんかしょうにん)が京で行われた大切な集まりに寺の印鑑を忘れ、一心に祈ったところ、龍の使いが届けてくれたという伝説が残っています。
そのため現在、石垣の下には池と龍神を祭る小さな祠(ほこら)があります。
龍神池の整備をしたとき、掘り起こした千年杉の木の根。龍の姿にそっくりだったので住職は「やはり池には龍が住んでいた」と確信したそう。木の根は本坊の床の間に大切に飾られています。
●済露山 高蔵寺(さいろさん こうぞうじ)
行基菩薩(ぎょうきぼさつ)が虹色の光に彩られた山に入り、一心に祈っていると白髪の老人が現れ、「私の像を刻んで祭れ」と告げて、千手観音に姿を変えました。それから千日かけて彫り上げたのが本尊の千手観音と言われています。
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6.水を噴いて火を消す? 消防車のようなイチョウの木
石段を上がると目に留まる1本のイチョウの木。
三木城主・別所長治の軍勢が押し寄せ、本堂に火を放ったとき、水を噴いて消したという言い伝えが残っています。見上げると枝葉を広げ、本堂を守っているかのよう。
●和多山 西仙寺(わださん さいせんじ)
江戸時代には姫路城主・本多忠刻(ただとき)の妻・千姫が田畑を寄進し、わずか3歳で亡くなった息子の霊を弔うために、信仰したお寺としても知られています。
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7.隠れキリシタンが密かに拝んでいたお地蔵様!?
本堂へ向かう途中にある僧坊の庭には十字架を背負った「キリシタン地蔵」が立っています。
衣のように見せかけて、やや斜めに刻まれた背中の十字。この辺りにも隠れキリシタンが住んでいたのでしょうか。
※隠れキリシタン…江戸時代にキリスト教の禁教令が出たにも関わらず、密かに信仰していた信者。
●柏谷山 西林寺(かやがにさん さいりんじ)
法道仙人の開基(かいき)と伝わる古刹(こさつ)。
境内には高浜虚子(きょし)や阿波野青畝(あわのせいほ)などの句碑(くひ)が残っています。参道沿いには「都麻乃郷(つまのさと)あじさい園」があり、アジサイの寺としても有名。
※開基…お寺を創立した僧
※古刹…歴史がある古いお寺
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8.贈られた鉄製の沐浴釜から感じる2人の友情
伽藍(がらん)を再建した寂心上人が皮膚病で苦しんだとき、親交があった書写山圓教寺の性空上人から送られた鉄の湯釜。これで沐浴(もくよく)をするとたちまち、治ったという逸話が残っています。今も奥の院に安置され、市の文化財に指定。
※普段は非公開
●八徳山 八葉寺(はっとくさん はちようじ)
山頂にある境内からは山々が重なり合って見え、それがハスの花に似ていることから寺名が付けられました。またコヤスノキの群生地としても有名で毎年5月中旬に黄色い花を咲かせます。
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本記事はライターが取材・校正を行った上で作成した記事です。内容は2020年8月25日時点の情報のため、最新の情報とは異なる場合がありますので、あらかじめご了承ください。