高砂市の山陽電車「荒井駅」から歩いてすぐにある「荒井廃墟1988」。築約80年という長屋の一角にあるスペースです。驚くべき外観の建物の中では、いったいどうなっているのでしょうか?
「荒井廃墟1988」とは?
山陽電車「荒井駅」から北に少し歩き、路地裏にある「荒井廃墟1988」。
看板も目印もないので、うっかりしていると通り過ぎてしまいます。見落とさないように気をつけてください。
目にとまるのは、築80年余の長屋の一角のオンボロな建物。
何とも言えない風情です。今流行りの古民家カフェでもなく、「廃墟」といわれるのも納得。哀愁がただよいます。
「荒井廃墟1988」の建物は、今現在のオーナーの高橋さんに注目されるまで、その存在を封印してきました。
オーナーの高橋さんがこの廃墟に息を吹き込み、現在はカフェなどに利用されるなど、止まっていた時が再び動き出したのです。
この廃墟に最後に人が住んでいたのは、残されたカレンダーや近所の方への聞き取りで、1988年までNさんという男性が住んでいたことがわかりました。
最後の住人Nさんを想像して、高橋さんや現在の「荒井廃墟1988」のスタッフ達が、新聞紙で作ったNさん人形。
Nさんも「荒井廃墟1988」のスタッフの一員です。
実は、オーナーの高橋さんは空間デザイナー。
都会からも行きやすい郊外で、古い物件を探していたところ、駅からも近く古き良き時代の姿そのままに残るこの長屋を見つけたそうです。
廃墟好きな高橋さんは、どこにでもある小洒落た古民家カフェではなく、自然に日々を重ねて劣化した家そのものを使って表現したスペースを作りたいと、この「荒井廃墟1988」を始めました。
オンボロだけど、なぜか居心地が良い空間
1988年から時が止まり、朽ち果てた住居そのままの姿で保存。
人が歩けるよう安全性を確保。ボロボロの畳もあえてそのままに見せるように上から透明のアクリル板を敷いています。
ちょっとした歴史博物館のようにも思えてきます。
経年劣化した畳のようすが鮮明に見ることができる和室スペース。当時のNさんがどんな人とテーブルを囲み、どんな会話をしていたのでしょう。
1階には8席あるカウンタースペースが。週のうちの何回か、カフェなどで利用されています。
床上や奥の間の板壁が剥がれた部分にアクリル板を張っているため、明るい採光がここちよく降り注いできます。
ボロボロの畳も剝がれた天井や壁も、あるがままの空間を工夫してデザインされた、珍しい保存リノベーションのスペースです。
カウンターテーブルの片隅には、こんなに古びた雑誌も。
この時代が青春だったお客さんは懐かしみ、若いお客さんは興味深々に手に取るそうです。お茶を飲みながら、お客さん同士やスタッフとも話に花が咲きます。
キッチンの天井には、換気扇変わりの吹き抜けが。
太陽光が差し込み、心地よいゆっくりとした時間が流れます。
カウンターで雑誌を読んだり、将棋をしたりしながら、まるでわが家のように長時間くつろぐお客さんもいるそうです。
曜日によって変わる店舗とメニュー
2016年11月に始まった「荒井廃墟1988」は、イベントや店舗を経て2018年3月に再出発。営業は水・土曜の週2日。曜日ごとに、営業スタイルが変わります。
『ローストビーフ丼』(コーヒー付き)1,000円
水曜日は「デザイングルメ」の日。
創設メンバーでもある、建築デザイナーの中村さんが出張デザイン事務所として2階を利用。同時に、一日限定5食の『ローストビーフ丼』が1階カフェスペースで提供されます。
この『ローストビーフ丼』は三宮でバーを営む岩田さんが2016年に「荒井廃墟1988」のスペースを借りてカフェスタイルのバーをやっていたころ、同店だけのメニューとして作り出したもの。
当時、おいしくて評判だったこのレシピを中村さんが受け継ぎ、現在提供しているそうです。
土曜日は、おいしいコーヒーが飲める日。こだわりの1杯は400円。
もとは「荒井廃墟1988」のお客さんだった福岡さんが、週1回お店をやってみたいということで、カフェを開くことになりました。平日はサラリーマンをされているそうです。
自由な発想と形態で、色々なことにチャレンジできるのが「荒井廃墟1988」なんです。
『お粥ランチ700円』
福岡さんのカフェでは自慢のコーヒーのほか、食事もできます。
素朴なお粥とお味噌汁、数種類のぬか漬けのセットで700円。コーヒー付きは1,000円。
レトロな店内で食べる『お粥ランチ』は、まるでおばあちゃんの家で食べる昼食のような、懐かしい感じがします。
日によって、気まぐれスイーツが提供されることもあるようです。取材した日はプリンでした。
土曜は福岡さんのランチのほか、ゲストによるサプライズランチが食べられる日もあるそうです。何が出てくるかわからないのも楽しみ方でもあります。
人との繋がりを大切に
オーナーの高橋さん(左)と土曜日の店長・福岡さん(右)
はじめは足を踏み入れるのも勇気がいる「荒井廃墟1988」でしたが、よく見ると丁寧に保存された古い“物”たちがアートにさえ見えてきました。一歩中に入ると次第に居心地がよくなり、まったりとくつろぐことのできる空間。不思議な魅力がある場所です。
2016年の立ち上げ時から、イベントや店舗、ワークショップなどさまざまな用途に利用されてきましたが、そこにあるのはいつも人と人との出会いや、つながり。
お客さんが店長になったり、スタッフとお客さんが一緒にイベントを行ったり。この場所をスタートに、新しい店をオープンした人もいます。
狭い空間で、人との出会いやコミュニケーションが生まれる場所。そして夢を実現できる可能性を感じられる場所。
一期一会を大切にできる場所。タイムスリップしたような感覚と、人との出会いを楽しんでみては。
■詳細情報
■DATA
本記事はライターが取材・校正を行った上で作成した記事です。内容は2018年6月4日時点の情報のため、最新の情報とは異なる場合がありますので、あらかじめご了承ください。