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2025.12.10
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【佐用】静かな山里の名そば処「蕎麦屋 鬨(とき)」素材の味を引き出す丁寧な仕事

「蕎麦屋 鬨(とき)」は、店主が「自分が本当においしいと思えるものだけを出す」という強い思いで営む一軒。香り豊かな二種のそばと、素朴で滋味深い惣菜が、訪れる人の心と体をそっとほぐします。丁寧な手仕事が息づく、静かで温かな“そば時間”がここにあります。心休まる空間で素敵な休日を過ごしてみてはいかが?

・「蕎麦屋 鬨(とき)」

中国自動車道・佐用ICから車で約17分。「蕎麦屋 鬨(とき)」は、山間にひっそりと佇む隠れ家のようなそば処です。店名の“鬨(とき)”は、落語の演目“時そば”から着想を得つつ、戦の際に士気を高める“鬨の声”や“勝鬨(かちどき)”を意味する漢字を選んだそう。店主の遊び心と思いがこの一文字に込められています。

店主夫婦は元々アパレル関係の仕事に携わっていましたが、神戸で阪神大震災をきっかけに“食”の大切さを再認識。趣味としてそば打ちを続けていたご主人の腕を生かし、そば屋を開業することを決意しました。その噂は口コミで広がり、食通やミシュラン星付きのシェフなどが足繁く通うほどの人気店に成長。

やがて「年齢を重ねたら、自然の中でゆっくり商いをしたい」という思いから神戸から佐用へ。物件探しの際は景色の良さを重視されていたそう。この古民家に出合い、歴史を刻む建物の風格やりっぱな欅(けやき)の大黒柱に一目惚れ。建物の一部を丁寧に改装し、そば屋に生まれ変わりました。

現在も変わらず、こだわりのそばを求めて遠方から訪れる人や、ドライブ途中に立ち寄るお客さんでにぎわい、週末には行列ができることも。平日のみ予約可能です。

店内は、1階の一部を吹き抜けにした開放感のあるテーブル席のほか、ロフト部分のテーブル席とカウンター席を用意。ロフトへ続く階段は少し急ですが、庭で拾い集めた木の枝を利用したぬくもりある手すりが味わい深く、古民家ならではの風情を感じられます。1階は和の雰囲気を楽しみながらもテーブル席で構成されているため、年配の人も安心して過ごせるのも魅力。


・ 2種のそばを1度に楽しめるそばランチ

『おひるごはん』1,450円

一番人気は『おひるごはん』。二種のそばにおこわ、そして季節の惣菜が付く贅沢なセットです。すべて手作りにこだわった、素朴でありながら体に優しく、ほっと心が休まる内容になっています。

そばは白く喉の良い「甘皮そば」と香り豊かな「田舎そば」の二種盛り。どちらも店主が信頼を寄せる取り引先からそばの実を仕入れ、自らの手で丁寧に打ち上げています。

まずは山ワサビをそっと麺に直接のせてぱくっと一口でいただくのがおすすめの食べ方。爽やかな辛みと素材本来の香りが合わさり、思わず静かに目を閉じてしまうほどの味わいです。その後は薬味をたっぷりお猪口に入れ、こだわりのつゆでいただくと、また違った表情が現れ、じんわりと心の奥までおいしさが染み渡ります。

セットに付く惣菜も魅力的。ポテト入りの卵焼きに加え、季節のお惣菜が3品。ポテト入りの卵焼きは大きめにカットされたジャガイモがゴロッと入り、ほくほくとした食感と卵の優しい甘みが相性抜群。素朴ながらも忘れられなくなる、奥深い味わいでした。

取材時の季節の惣菜は、「筑前煮」「海苔の佃煮」「ひよこ豆のカレー和え」の3品。筑前煮は素材一つひとつのうま味が丁寧に引き出された味わいで、滋味豊かに広がります。海苔の佃煮は、出汁をとった後の昆布を生かしたもので、驚くほど風味豊か。ひよこ豆のカレー和えは軽やかなスパイス感がアクセントとなり、食卓に小さな冒険心を添えてくれるのに一役買っています。

加えて、店主が自ら漬け込む漬物も必食の一品。季節によって内容は変わりますが、取材時に提供されたニンジンやナスのお漬物は、サッパリとした口当たりの中にしっかりとうま味が感じられ、思わず箸が止まらなくなるおいしさでした。ほどよい塩味と野菜の持つ自然な甘みが絶妙で、日本酒と合わせて味わいたくなる大人の一皿です。

また、料理を引き立てる器にも店主の審美眼が光ります。特にのお猪口は江戸中期ごろの貴重な品を使用しているとのこと。こだわりの器とともに味わうそばは、まさにここでしか体験できない一膳です。

・バラエティー豊かな一品メニューも♪


『鴨せいろ』1,500円

最近じわじわと人気を集めているのが『鴨せいろ』。濃厚な鴨の出汁にそばをくぐらせて味わう贅沢な一品で、『おひるごはん』と同様に2種類のそばが楽しめます。同じ鴨出汁でも麺によって香りや余韻が異なり、食べ比べが楽しめるのもこの料理の醍醐味です。

また、鴨せいろに使われる出汁は、昆布・イリコ・宗田鰹・イワシ・サバなど5〜6種類の素材を組み合わせ、60〜80度でじっくり煮出して取られたもの。他の料理にも使われるこの出汁は、完成までに約4時間を要するという、まさに手間暇を惜しまない“宝の一滴”。その深いうま味が鴨のコクと相まって、最後の一口まで心をつかんで離しません。

『そばの餅』600円

そば屋といえば「蕎麦がき」を楽しみにしている人も多いかもしれませんが、同店では「本当に自分がおいしいと思うものだけを出したい」という店主の熱い思いから誕生した『そばの餅』を、その代わりとして用意しています。

粗挽きのそばの実をたっぷり練り込んだ、そばがきを香ばしく素焼きにした一品で、外側はほのかに香ばしく、中はもっちりとした食感。付け合わせには刻みネギと生姜をきかせた特製付け汁が添えられていて、これに軽くくぐらせるのが“蕎麦屋鬨流”。まるで大人のための“至福のつまみ”ともいえる存在です。

築150年の古民家で丁寧に打たれる二種のそば、心をほどく惣菜、店主の哲学が息づく一品料理。そのどれもが“鬨”という名にふさわしい力強さと静けさを帯びています。まるで田舎の実家に帰ってきたような、どこか懐かく心地よい時間が流れる「蕎麦屋 鬨(とき)」で、ひと息つきながら至福の一杯を味わってみてはいかがでしょうか。

■詳細情報

■DATA

蕎麦屋 鬨(とき)

所在地
兵庫県佐用郡佐用町西大畠456-2
電話番号
080ー1488ー4876
営業時間
11:00〜15:00(L.O.14:30)(無くなり次第終了)

本記事はライターが取材・校正を行った上で作成した記事です。内容は2025年11月14日時点の情報のため、最新の情報とは異なる場合がありますので、あらかじめご了承ください。

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